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シンチレータの応用分野
シンチレータの応用分野は多岐に渡っており、そういった意味で広く社会全般に影響を与えうる研究テーマであると言えます。
放射線検出の基本原理
放射線は、我々に身近なX線レントゲンからも分かるように、一般に透過力が非常に高い。その透過力は様々な分野で応用されています。放射線を可視光に変換する役割を担うのがシンチレータです。可視光に変換された信号は、光電子増倍管や半導体によって電気信号に変換されます。それらの電気信号をPC等でデータ処理を行うことにより、画像等の情報を得ることができます。
核医学への応用
先進国になるにつれ、日本の癌患者数は増加の一途をたどってきました。しかしながら、医療技術の発展により、癌は早期発見さえできさえすれば、最早不治の病ではなくなりつつあります。癌の早期発見に威力を発揮するのが PET (Positron EmissioN Tomography) です。癌細胞は正常細胞よりブドウ糖を多量に消費する傾向があります。そこで、ブドウ糖に微量の放射線を混ぜた薬剤を患者に投与することによって、癌を発見するのが PET の仕組みです。我々のグループは、結晶部分のみならずその先のイメージングデバイスの開発も独自・もしくは他の研究機関と共同で行っております。
素粒子・原子核・宇宙物理への応用
シンチレータは、高エネルギー物理学の分野でも頻繁に用いられます。例として、宇宙物理学を取り上げます。上左図は NGC2264 という星形成領域を可視光で観測したものです。星は宇宙に漂う濃い塵が集積して出来るため、図のように主にそのガスが観測されます。一方、上右図は同じ領域を
X 線で観測したものです。高い透過力のため、ガスを通り抜け、個々の星々を鮮明にとらえています。このような高い透過力を利用したものは、上記核医学と同様ですが、素粒子や原子核分野では、例えば未知の粒子をとらえるためなどに多くのシンチレータが用いられています。
資源探査
石油や鉱物といった資源探査にもシンチレータは活躍しています。例えば、石油層の周囲には、放射性同位体を含む層が存在していることが多いため、そこからの放射線を検出することで、ある程度の位置決定を行った後に掘削ができます。資源探索には莫大なコストがかかりますが、事前に位置を決定してから探索ができるため、コスト削減等に寄与します。こういった用途のシンチレータは、ある種極限的な環境で用いられるために蛍光の強さ、時間応答といったもの以外にも、機械的強度の強さなどが求められます。
セキュリティ分野
空港の手荷物検査機などに代表される、安全チェック装置にも、シンチレータは用いられています。原理としては、手荷物に放射線を照射し、仮に物が存在すればその部分では放射線が弱く、物がなければ放射線の検出強度が強くなる、といった X線レントゲン等と同じ仕組みで透過撮像を行います。近年は、アメリカでの同時多発テロを契機に、こういった放射線を用いたセキュリティー機器の開発が非常に活発に行われています。
核融合炉
核融合は、太陽では恒常的に起こっている自然現象です。これは、例えば水素と水素を融合させ、ヘリウムにし、その際に放出される莫大なエネルギーを利用するという目的の元に世界各国で開発が行われています。現在の原発で行われている発電方法は、逆に、原子が分裂する際に放射されるエネルギーを利用しており、その際には余計な副生物(放射性廃棄物) が生成されてしまいます。核融合はその点、二酸化炭素も放射性廃棄物も生成せず、究極のクリーンエネルギーということができるでしょう。核融合実験においては、融合させる際に大量の中性子を発生します。こういった中性子を検出するのもシンチレータの役目です。現在は、核融合反応の進行度を確認するため、将来は、定常的な核融合反応のモニタリングのため、シンチレータが用いられ続けると考えられます。
文化物の非破壊検査
文化物や生物等の非破壊検査にも放射線は広く用いられています。放射線の高い透過力を生かすことにより、文化物を破損することなく、内部の様子などを知ることができます。
地雷探知機
物騒な話題ではありますが、地雷探知機にもシンチレータが用いられております。よく用いられる原理としては、地雷の火薬中に含まれる窒素が含まれているため、これに中性子を照射します。窒素と中性子が反応し、速中性子をガンマ線を放射します。高速中性子の後方散乱イベントを中性子検出器でとらえて地雷の有無を確認し、ガンマ線の解析により火薬の種類を特定し、中性子イベントの時間情報などから、地雷の震度をおおよそ推定する、といった方式が用いられます。