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シンチレータ読み出し素子としてのAPDの研究
半導体検出器とは
半導体検出器とは、光電子増倍管のような色々な素子が組み合わさった機構装置ではなく、一個の小型素子である。 主に Si 半導体に不純物を添加することで PN 層を構成し、そこに逆電圧をかけて空乏層を生成し、そこに入射した光子を検出する。 空乏層に入射した光子は、電子正孔対を生成し、これらの粒子は各々逆方向に進む。この電子を読み出すことで信号を検出する。 光電子増倍管に比べた利点は、量子効率が高いため、分光性能を向上できること、が挙げられる。 従来は、Photo diode (光ダイオード)と呼ばれる素子が利用されてきた。
読み出し素子の比較
光ダイオードは量子効率が高く、小型、小電圧で動作する一方で、信号増幅機構がなく、ノイズに弱い。光電子増倍管は、大型で高電圧が必要であるが、 大きな信号の増幅が行えるため、ノイズなどをほとんど気にせず信号を読み出すことができる。これらの両者の長所を併せ持った素子が、アバランシェ フォトダイオード (APD) である。APD は 1990 年代より、光信号の受信素子として利用されてきた。その後、大面積化が進み、現在では放射線検出器 にも利用されるようになりつつある。大型化が図られた結果、現在では、直接放射線を検出するタイプと、シンチレータと組み合わせることで放射線 を検出するタイプの二種類が存在する(細かい分類はもっとあるが)。我々は、主として後者のタイプの APD の研究を行っている。
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APD の基礎特性
APD を用いてシンチレーション光を読み出し、良い結果を出すためには、その基礎特性を押さえねばならない。すなわち増幅率(M)、容量(C)、暗電流(I)
である。これらを精密に測定してはじめて、APD の動作特性を良く理解することができ、良い測定結果を出せることになる。こういった事前測定なしに
APD を始めとした半導体検出器を利用すると、度々信号が検出できない、といった困難に遭遇することとなる。逆にこれらを測定してしまえば、結晶と
組み合わせた際に信号が検出できないのは、APD のせいか、結晶のせいか、はたまた実験系のせいなのか、といった原因を究明することができる。
下図は APD (赤線) と PMT (黒線) に同じ結晶を光学接着して測定を行った結果であり、APD の方がエネルギー分解能が優れていることが一目で分かる。
ノイズの評価
前述のような基礎測定を行うことで、下図のようにノイズの評価を行うことができる。下図では、ノイズを暗電流、容量起因にそれぞれ 切り分けており、また増幅率が100倍を超えると、ノイズはそれ以上低減しないことが分かる。つまり、この
APD 素子では、増幅率を100倍 以上に上げても、回路雑音の観点からは性能の向上が期待できないことが分かる。
過剰雑音係数の評価
APD に特有な雑音としては、過剰雑音係数 (excess noize factor、F) がある。これは、APD の増幅率のゆらぎとして定義される。 下図は求めた測定値を、McIntrye のモデルと比較した結果である。さらに具体的に F を書き下すと、keff と M を用いてあらわすことが できる。ここで、keff は有効衝突電離係数比である。有効衝突電離係数比は、電子の衝突電離係数と、正孔の衝突電離係数を用いて表される。 衝突電離係数比は、各々の衝突電離係数α、βを用いて書き表せる。
容量特性のモデル化
我々は、APD の容量特性を正確に評価し、さらにそれを下式のようにモデル化することにも成功している。ここで、VlimはN層が完全空乏化したときの印加電圧を示している。印加電圧を Vlim 以上にあげると空乏層がN-層に広がってゆく。
シンチレータ固有のエネルギー分解能 (Intrinsic resolution) の評価
我々は、APD の容量特性を正確に評価することで、結晶シンチレータ固有のエネルギー分解能を評価する新しい手法を確立した。 APD を用いて測定したときのスペクトルのピークの分解能と結晶固有のエネルギー分解(Intrinsic Energy Resolution)の関係は以下のようにかける。本分解能は、M. Moszynski教授 (Soltan Institute for Nuclear Studies in Swierk, Poland) らによって色々な結晶で評価されているが、極低温まで冷却しての実験となるため、世界でも行えるグループはほとんど存在しなかった。 我々は、APD の基礎特性を深く理解することで、これを常温で行う方法を確立した。BGO 結晶を用いて測定を行い、Moszinski 教授の 結果と比較した結果、エラーバーの範囲で一致する結果を得た。本結果は、2007 年度の IEEE で発表する予定である。
今後の応用に関する展望
現在、APD でも光電子増倍管と同様に、多素子化して画像装置を構成しよう、という研究が盛んに行われている。イメージャー関連の の研究で唯一公表されているものが、米国のRMD社による PSAPD (Position Sensitive APD) である。これは Beveled Edge 型の APD であるため、 動作には約 2000 V という高電圧が必要であるが、読み出しが 4ch で済むため、コンパクトな検出器を構成することができる。こういった タイプの APD ができることで、将来的には MRI-PET のような、現在では不可能な医療装置等を開発することが期待される。 我々のグループも、PSAPD の入手を企図して、RMD社と交渉中である(中々米国の外には販売しないようである)。また、 東工大の片岡グループが、pixel 型の APD を開発中であり、将来的に、我々の開発したシンチレータと組み合わせる形での共同研究も行っている。 下図は、Shar 氏 (RMD) らによる論文 (IEEE Nucl. Trans. Sci, vol 49, 2002) から抜粋。