概要(Abstract)
本ページ（別のタブも含む）では、黒澤が行っている研究について説明します。
安全にがん治療ができるようにするため、橋や建物の内部劣化を観測するため...などなどの応用を念頭に、
ガンマ線、X線、中性子、アルファ線と呼ばれる放射線を「いかに正確に、短時間で測定するか」（=測定の高感度化）
を目指した検出器の開発を黒澤は行っています。
検出器は、残念ながらネットショップでも手に入らないので、基本は自分で設計して、組み立てます。
さらに、検出を行うための素子・素材も開発しています。
ここでの素子とは、銀塩カメラで言えば「フィルム」に、デジカメでは「ＣＭＯＳセンサ」にあたる部分を指します。
特に、放射線の場合には、「シンチレータ」と呼ばれる放射線を光検出器で検出できるようにエネルギー変換する発光材料が使われることが多く、
より明るいシンチレータ材料の開発を行っています。
さらに、まだ誰も見たことのない暗黒物質や素性が完全に分かっていないニュートリノなどの素粒子を調べるための検出器や素子も開発しています。
シンチレータに限らず、発光体全般についても、新しい発光材料を中心に「どうやって光るの？」という点の調査も行っています。
研究は、所属大学で行うほか、国内外の共同研究者の方の元に赴き、協力して実験を遂行したり、共同利用施設を使ったりしています。
本ページ（別のタブも含む）では、一般の方にも分かるように、できるだけ分かりやすく書けるように、随時遂行、修正を行いたいと思います。
ただ、なかなか筆が遅い場合もありますが、その点はご容赦ください。
最近はオジサマ認定されてしまいますが、よく顔文字を使いがちです... ^^;
専門の皆様へ
本ページでは、分かりやすさを重視するため、やや厳密性に欠ける表現を使う可能性があります。
もちろん、誤りがあれば、ご指摘は大歓迎ですので、ぜひぜひ学会などで議論をよろしくお願いします _ _)
はじめに(Introduction)
「見えないものを見ようとして」とある研究者は望遠鏡を作り（自然科学）、またある研究者は概念や"言葉"をつくり（人文科学）、そして制度をつくりました（社会科学）。
すこし、情緒的なな文章ですが^^;、科学とは、何か分からない現象を、誰が何時でも、同じ説明ができるように共有化する作業だと思います。
その過程で色々な説があり、それぞれの検証があり、そうして、一つの解釈に収束してゆく作業があります。
そして、せっかく、収束しても新たな発見で、今までの説明がひっくり変える(Revolution, 回転)する。。。。。そんな歴史です。
特に、自然科学では、「見る」という作業がとても重要です。
「見る」ための方法としては、長年、「目で見える光（可視光）を目で見る」(by eye)や「音を聞く」「匂いを嗅ぐ」という方法がとられていました。
これは、可視光（または音）といった信号を対象物に照射させて、その可視光（または音）の変化（吸収、散乱、反射）を検出器である目（耳）で観測するものです。
もしくは、自ら光る、自ら香るもの（信号）を目や鼻で観測するもの（検出）です。
「信号を検出する」ことが「見る」なのです。
19世紀の後半からは、可視光以外の光（電磁波）も「信号」としての利用がされるようになり、大きく科学が発展しました。
はじめは正体が不明で、とりあえずX線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などと名づけられた放射線が、そのうちに、何かが分かってきて、
「信号」として使えることが分かってきました。
と、同時に「検出」する道具も発達しました。
現在では、健康診断で使うX線CTや空港での手荷物検査など、非破壊検査などで放射線が使われています。
信号の発見と検出方法の発見は、表裏一体です。
黒澤の研究は検出方法の探索（シンチレータ開発や検出器開発など）を主な研究に据えながら、新しい信号（暗黒物質など）の研究も行っています。
開発例1
作成中。しばらくお待ちください_ _)。。。
シンチレータとは(What's Scintillator)
シンチレータとは、簡単に言いますと、人間の目や、CCDやCMOSカメラといった光検出器で直接検出できない放射線を、
これらの検出器で見える光子に変換する材料のことで、放射線を「見える化」する材料のことです。
例えば、１メガ電子ボルト(=1 MeV)というエネルギーのガンマ線（光子）1個から、紫色〜紫外線に相当する3電子ボルト(=3 eV =約400 nm)の光子2万個を生み出すような機能性材料です（*）。
シンチレータは、放射線を検出素子として、例えば、環境中の放射線、食品中などの放射能の検査、がん診断の検出器、石油探査、ガンマ線天文学・素粒子物理実験など幅広い分野で活躍しています。
シンチレータは、無機物からなる無機シンチレータ、その逆の有機シンチレータ、それらのハイブリッド型シンチレータ、というような大別ができます。
また、固体、液体、気体、というような分け方や、結晶、多結晶（セラミックス）、および、非晶質（アモルファス＝ガラスやプラスチックなど）といった分類もよくされます。
それぞれの状態で、発光機構や用途などが異なってきますのですが、多くの場合、発光量が大きい（発光効率が良い）材料を求めて、研究を行っております。
例えば無機シンチレータの多くはバンド構造を持ち、図K2.1のような過程で発光が生じています。
上記の（*）で示した例では、元のエネルギーが
1MeV (= 1,000,000 eV)であるのに対して、生じた光子のエネルギーの総和は
3 eV x 20,000個 = 0.06 MeV
となっています。つまり、元の6%しか発光エネルギーに使われず、残りは熱エネルギーなどに変換されてしまいます。
これらの"エネルギー損失"は例えば図１の電子輸送の過程で、結晶の欠陥などに由来するトラップサイトなどによりその輸送効率が低下してしまうなど、多くの原因で発生します。
発光量（発光効率）を大きくすることは、放射線の感度を向上させるなど、多くのメリットがあるため、これらの効率を上げるための研究を行っております。
図K2.1：大雑把な無機シンチレータの発光機構
無機シンチレータ(Inorganic Scintillator)
特徴、用途などについて、記載します。しばらくお待ちください_ _)。。。
有機シンチレータ(Organic Scintillator)
特徴、用途などについて、記載します。しばらくお待ちください_ _)。。。
Intelum project
CERN（欧州原子核研究機構）での次世代粒子加速器(コライダー)に利用されるシンチレータ材料の開発・選定の国際プロジェクト（Intelum project）のメンバーとして、新規材料の開発に携わりました。
コライダー(Collider)とは、 反対方向に加速させた粒子などを一か所（もしくは複数個所で）衝突させる装置。衝突時に発生する反応を観測することで、もう分けることのできない粒子（=素粒子）を含む粒子の発見・観測が行われてきました。
CERNでは、大型ハドロン衝突型加速器 (Large Hadron Collider、LHC)などの衝突型円形加速器が運用され、ヒッグス粒子の発見と検証が行われました。
衝突点では、生じた粒子などを正確に特定するために、エネルギーと飛跡を感度よく検出するための装置が、世界的な協力体制の下で構築されており、ガス検出器などと合わせて、シンチレータも利用されています。
日本では、円形ではなく線形の”リニアコライダー”の誘致を行っており、聞いたことがある方もいるかもしれません。
単結晶合成：コア・ヒーティング法の開発
(Growth of Single Crystal:Development of Core Heating Method)
国際競争力のある材料開発には、材料合成と評価の両輪を迅速に行うシステムが必須です。
そこで、結晶合成を迅速に行えるシステムを開発しています。
特に、2300℃を超えるような高融点材料は、結晶育成法が限定的で合成技術も簡便ではなく、開発コストが高いなど問題がありました。
というのも、
材料探索を含めた結晶育成で多用されるチョクラルスキー法、ブリッジマン法およびマイクロ引き下げ法といった「ルツボ」を用いる方法では、
ルツボとして使われる白金やイリジウムといった金属の融点、もしくは、金属が柔らかくなり変形する温度（軟化点）が
溶かして結晶化させたい材料の融点よりも低いためです。
つまり、加熱すると、ルツボのほうが先に溶けてしまいます。
高融点材料の結晶育成法としては、スカルメルト法やフローティングゾーン法などがあります。例えば、模造ダイヤであるキュービックジルコニア（ZrO2）
は融点が2700℃を超えるため、大量生産に向いているスカルメルト法が良く適用されます。
しかし、材料探索の段階必要な、迅速、かつ、簡便な合成法として、スカルメルト法やフローティングゾーン法は不向きです。
そこで、アーク放電に注目し、新しい方法を開発しました。アーク放電では約5,000〜15,000℃の超高温と高エネルギー密度が得られる特徴があり、
この放電を利用した炉（アーク炉）は金属を溶かすなどの用途で、比較的多くの研究施設に導入されて身近な炉です。また、その炉のサイズも小型です。
今回、アーク放電を利用して、「熱の種」となる核「コア」としての金属をアークで溶かして、その熱で目的の原料粉末を溶かし、
徐冷により結晶を育成する方法を試しました（図K3.1）。
このように、直接原料粉末を加熱せずに、「コア」を加熱することから、コア・ヒーティング法（Core Heating, CH法)と名付けました。
本方法では、原材料自体がルツボとして機能します。
図K3.1：コア・ヒーティング法（CH法）の概念図
セラミックス合成(Fabrication of Ceramics)
単結晶同様に、国際競争力のある材料開発には、材料合成と評価の両輪を迅速に行うシステムが必須です。
新規発光体の探索において、単結晶合成よりも、その合成可能な材料の幅は大きく、そのおおきな「海原」を効率的に開拓する合成法を開発しています。
光物性(Optical Physics)
新しく発見・開発した光学材料について、「なぜ光るのか？」を解明するために、結晶構造、バンド構造の解明などを、共同研究者のご協力も頂きながら、行っています。
なお、評価に際しては、自然科学研究機構 分子科学研究所 極端紫外光研究施設（UVSOR）などの放射光施設も使わせていただいております。
また、発光評価用の装置開発も行っています。
暗黒物質探査
東京大学 宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 関谷氏らと協力しながら、暗黒物質を検出するためのシステムを素材から開発しています。
作成中。しばらくお待ちください_ _)。。。
ニュートリノレス二重ベータ崩壊実験
大阪大学（大学院 理学研究科）の梅原氏、徳島大学（大学院 社会産業理工学研究部）の伏見氏らとともに、ニュートリノレス二重ベータ崩壊実験用の超高純度結晶の開発を行っています。
核医学:粒子線によるがん治療の信頼性を向上させるためのリアルタイム線量モニタの開発
粒子線治療はがんを治す放射線治療の１つの方法です。
粒子線治療に用いられる陽子や炭素の原子核などの荷電粒子は体内をある一定の距離（ブラッグピーク）まで進むと、
そこで集中的にエネルギーを体内の物質に与え、止まる性質があります。ここでエネルギーを与えられた物質は、
電子やガンマ線などさまざまな粒子や光子のような放射線の形でエネルギーを放出し、がん細胞のDNAを破壊します。
粒子線治療ではこのブラッグピークの位置を体内のがんの深さに合わせることによって、体内深部のがんのみをねらい撃ちすることが可能で、
放射線が正常組織に当たることによる副作用を減らすことができます。
これが従来のＸ線やガンマ線を用いる放射線治療に比べて大きな利点
となっていることから、日本国内のみならず世界的にも、その治療施設数、治療症例は増えています。さらに、国内では一部（部位）
で粒子線治療が保険適応となり、今後も適応部位が広がれば治療症例は飛躍的に増えると予測されています。
この治療法で重要な点は、ブラッグピークの位置を体内のがんの深さと正確に一致させることです。
ブラッグピークの位置は入射する粒子線のエネルギーや、相互作用する物質（脂肪、筋肉、骨といった組織）に依存するため、
治療前に撮影したＸ線コンピュータトモグラフィー(Ｘ線CT)上での体内のがんの位置に基づいて最適な粒子線エネルギーや粒子線ビームの形を決めています。
その一方で、実際に粒子線治療中のブラッグピークの位置が計算で見積もられた位置と一致しているかどうかは、これまで分かりませんでした。
これでは、実際のがんの位置とのずれが生じた場合に、過少照射のおそれがあることから、広めの領域で治療をしていました。
もしも、がんとのずれが少なくなれば、これまでは、正常臓器が腫瘍に近接しているために粒子線治療の適用が難しかった部位についても
治療が可能になることが期待できます。また、照射回数の減少も期待でき、患者さん・医療機関双方にとっての利益になり得ます。
そのため、照射中、つまり、リアルタイムにブラッグピークの位置をモニタできる方法の開発が望まれています。
ただ、ブラッグピークの位置は、患者さんの体内にあることから、直接粒子線を検出器で観測することは極めて困難です。
そこで、粒子線から生み出されたガンマ線を利用して、ブラッグピークをトレースする方法の開発が進められてきました。
ガンマ線は、体内も透過することができるため、体内の様子が外からモニタできます。
しかしながら、既存のガンマ線撮像カメラを用いた場合、治療中は、ガンマ線が体内だけでなく、
粒子線に由来する二次粒子やガンマ線が部屋全体からも飛来するなど、
ブラッグピークをトレースする「信号」となるガンマ線を選択して撮像することが難しいという課題がありました。
この課題を解決するために私たちの研究グループは、電子飛跡型コンプトンカメラ(ETCC)という新しい撮像カメラを開発・改良し、
モニタの開発と実証を行っています(図K5.1)。
本研究は、京都大学、山形大学などとの共同研究で、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所のご協力の下に進めております。
なお、われわれのETCCは2000年代ごろより京都大学宇宙線研究室で開発がスタートした検出器です。
図K5.1：電子飛跡型コンプトンカメラ(ETCC)を用いた粒子線治療のリアルタイム線量モニタの開発の概念図
超線量モニタ
通常の放射線検出器（線量モニタ）が動作しないような、
1毎時シーベルトを超える非常に高い線量下でも環境測定できるような
システム（図K5.2の分離型）を、素材の開発、
撮像機器の開発、そしてシステムの開発まで
を一括して行っています。
図K5.2：�…名錣諒�射線検出器（線量モニタ）の概念図、��高線量場で使用した時の問題点、�３�発している分離型の概念図
分離型の実現のためには、光ファイバーの長さが長いため、伝達効率の良い赤色発光のシンチレータが求められています。しかしながら、既存のシンチレータがの典型的な発光は紫外線〜青色〜緑色（550 nm以下の波長）でした。そこで、図K5.3のように橙色〜赤色で発光する新しいシンチレータの開発を行っています。そして、そのシンチレータを組み込んだシステムを開発しています。
図K5.3：赤色シンチレータを分離型で使う利点（下の吹き出し写真は実際に育成した結晶に紫外線を照射したときの発光）
アルファダストの検出
現状の福島第一原子力発電所の廃炉計画では、がれき（デブリ）の取り出しが計画されています。
実際にがれきを取り出す際には、ほこり（ダスト）が舞う（発生する）ことが予想されており、このダストの中には、アルファ線を放出する放射性同位元素が存在する可能性があります。
このほこりのことを、アルファダストと呼び、安全に作業を進めるためには、大きさや核種、強度などは解明が必要です。
国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構（JAEA）などと協力して、このアルファダストを観測するための装置を開発しています(図K5.4)。
図K5.4：アルファダスト観測装置の概念図
その他
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