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新規機能性フッ化物結晶の開発
フッ化物単結晶は,紫外から赤外領域の広範囲における高い透過性を持つため、リソグラフィー用硝材(窓材)、短波長レーザ用硝材,短波長レーザ用母結晶,アイセーフレーザ用母結晶,シンチレータなど、多彩な応用の可能性を秘めている。しかしながら、フッ化物材料は吸湿性、潮解性のある物質が多いため、単結晶作製には高度な雰囲気制御が不可欠であり、この点がフッ化物作製のポイントになる。
特定の単結晶材料では、チョコラルスキー(Cz)法やブリッジマン(BG)法で単結晶作製が行われている。しかしながら、これら育成方法は大きな結晶ができるというメリットがあるものの、結晶成長に比較的長い時間を要する為、新規物質の探索にはあまり効果的でない。(恐らくは)この理由により、世界的に見ても新規の機能性フッ化物結晶を系統的に探索する研究はほとんど行うことができていない。
我々は研究室の得意とするマイクロ引き下げ法(μ-PD法)をフッ化物対応にすることで、フッ化物系単結晶の材料探索速度を画期的に向上させた。この手法により、従来の融液成長法(Cz法やBG法など)と比較して、1〜2桁速い速度で結晶育成が可能となった。また、濡れ性、不純物制御、蒸気圧等、いくつかの問題点もあるため、フッ化物単結晶作製に関する技術開発の余地も残っている。
フッ化物用μ-PD装置は,酸化物等で使用されている既存のμ-PD装置を基にフッ化物作製に必要なスペック付加した形となっており、高度な雰囲気制御を可能としている。具体的には,(1)高真空にするため油拡散ポンプの設置,(2)るつぼ材・断熱材等を石英などから耐フッ素性の材料に変更,(3)窓材を石英ガラスからCaF2に変更,(4)ガススカベンジャーの使用などが挙げられる。また、本研究室では、この結晶育成技術を更に発展させた結果、溶融凝固というシングルプロセスにおいて各種形状制御(ロッド状、板状、角状)結晶成長にも成功した。形状制御を行うためには坩堝材とフッ化物の濡れ性を知ることが一つの指針となり、例えばるつぼのダイの形状を工夫することにより、図に示す様な角状の結晶が得られる。またダイ形状の設計により、下図の様な幅10mm、厚さ1mmの板状結晶を得ることにも成功している。
この方法装置により、CaF2,BaF2,CeF3,PrF3,NdF3,BaMgF4,BaLiF3等、多くのフッ化物単結晶の作製に成功した。
最近の結果としては、各種放射線検出器に使用されるシンチレータ結晶に注目し、高密度希土類フッ化物結晶の開発研究を行い、シンチレーション特性評価との間でフィードバックを行いながら研究進めている。
ここに例として挙げているのは、セリウム(Ce)をドープしたフッ化プラセオジウム(PrF3)というシンチレーション材料である。本装置で単結晶を育成し、シンチレーション特性の評価を行った結果を掲載した。Ce:PrF3(=0,0.1,0.5,1,3mol%)の発光スペクトルを図に示したが、290nmのCe3+:4f-5d遷移に起因する寿命の短い発光は、ドープしたCe濃度の増加と共に増加していることがわかる。また400nmのPr3+:4f-4f遷移に起因する寿命の長い発光(〜600nsec)は、ドープしたCe濃度と共に減少した。このことは、ホスト結晶であるPrF3からActivatorであるCe3+へのエネルギー遷移が起きていることを示している。図は3mol%Ce:PrF3の300nmでの蛍光寿命(UV励起)の場合の結果を示しているが、20nsecという早い値を示している。
実際にはγ線用シンチレータ結晶は高密度が要求されるため、このCe:PrF3が即実用化とはならないが、エネルギー遷移による高輝度化という原理自体は今後の新規シンチレータ開発指針に重要な知見となる。学術的観点からも非常に興味深い現象である。
一方、フッ化物シンチレーターの有望な用途として、中性子線検出用シンチレーターが挙げられる。中性子線利用技術はセキュリティ、医療、研究開発などの分野で発展を続けており、より高性能なシンチレーターが求められている。中性子線用シンチレーターには、中性子に対して高感度であると同時に、中性子に随伴するγ線に対しては低感度であることが求められる。そこで我々は、中性子吸収断面積の大きいリチウム(Li)を含有し、かつγ線感度の低いLiCaAlF6(LiCAF)に着目し、これにCeをドープしたCe:LiCAFの特性評価を行った。図は模擬的にα線を照射して測定した波高分布スペクトルである。中性子線を模したα線に対して充分な感度があることに加え、γ線に対しては感度が低く、α-γ同時照射においてもα線検出が可能であることが示された。また、γ感度の高いCe:BaLiF3を用いた場合には、α線の吸収ピークがバックグラウンドに埋もれて判別できなくなっており、この用途においてγ線弁別能が重要であることが分かる。
以上のように、本研究室のフッ化物グループでは、フッ化物μ-PD法を採用することによって、単結晶の特性を迅速に把握して材料特性の網羅的な把握を行い、新規機能性フッ化物結晶の探索研究を行っている。