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磁歪材料
磁歪材料研究の背景
太陽光をはじめとする再生可能な新しいエネルギーの創出に関する研究は古くから行われていますが、東日本大震災を機に原子力発電の停止も実施される中、 代替エネルギー創出への関心はますます高まっています。我々の生活環境の中にあるエネルギー源としては、太陽光、振動、熱、電波などが挙げられますが、 各エネルギー密度を比較すると表1の通りです。
環境エネルギー源 | エネルギー密度 |
---|---|
太陽光 | 10-1 ~ 10-4 W/cm |
振動 | 10-3 W/cm |
熱 | 10-5 W/cm |
電波 | 10-6 W/cm |
太陽光はエネルギー密度に関しては最も高い値を示していますが、日中しか発電できず天候に左右される等の問題があり、安定的な発電には不向きであることは周知の事実です。 それに対し、振動は比較的高いエネルギー密度で昼夜問わず発生しているものが多く、安定的なエネルギーの創出が見込めます(図1)。 日常の生活環境の中に存在する振動は、ビル、タワー、橋などの構造物関連、電車、自動車、飛行機、自転車などの交通関連、 人の生活振動、家電(洗濯機、掃除機)、携帯電話、腕時計、万歩計、リモコンなどの生活関連、モータ、ロボットアーム、クレーンなどの産業機器関連など多岐にわたります。 しかし、これらのほとんどのエネルギーが捨てられているのが現状です。
ネットワーク社会の高度化が進む中、近年特にエナジー・ハーベスティング市場において、ライフラインや大型ビル、プラントなどの疲労や破壊状況をセンシングして、 余寿命診断や破損監視を行うセンサーネットワーク構想が打ち出され、各種センサーの開発だけでなく、それらを無給電(自己発電型)で、配線不要、メンテナンスフリー、 無線で情報発信できる自立型の「ワイヤレスセンサーネットワーク」への展開が要望されています。 この中で磁歪材料を利用した素子には、振動を利用した自己発電に対する期待が大きくなっています。 磁歪方式では、高いエネルギー変換効率が可能で、耐久性・耐熱性に優れ、低価格化も可能です。
μ-PD法を利用した磁歪材料のニアネットシェイプ結晶成長
磁歪材料の有力な候補の1つが2000年に米国海軍研究所にて開発された磁歪材料である鉄-ガリウム合金(Galfenol、Fe87.6Ga12.4)です。 この材料は、現在、米国ETREMA社により直径1インチ程度のインゴット(図2(上))が販売され、市場をほぼ独占しています。 高い磁歪定数(約300 ppm)かつ延性材料という特徴を活かし、振動発電における利用が検討されてきました。 吉川研究室では、共同研究者の金沢大・上野准教授とともにGalfenolを用いた磁歪デバイスを開発しています。 平行梁構造を取ることで、小さな応力を大きく拡大し、40%の高いエネルギー変換効率を実現しています。 166Hz 2.5Gの環境下で9.1mWの出力を達成しています。 また、耐久性と寿命に優れる構造をとることも特徴となっています(図2(下))。 これらの特徴により、ボタン電池と同等サイズ・同出力での半永久的な電力供給が可能となります。
問題は鉄-ガリウム合金で図3に示す通り、磁歪特性が高くなる組成が狭いことです。 そのため、鉄-ガリウム合金のインゴットを製造する際に、偏析現象が起こり、従来法である引き上げ法やブリッジマン法では歩留まりが悪くなります。
これらの背景を踏まえ、本研究室では磁歪材料に関する以下の項目を重点的に研究しています。
- 原理的に偏析係数が1に近づく製造法であるマイクロ引下げ法を用いて、 組成と形状の両方を同時に制御し、特性が高く、かつ、ニアネットシェイプで製造するプロセスの開発
- 鉄-ガリウム合金を超える新規磁歪材料の探索